ビデオゲームとイリンクスのほとり

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話題のジグソーパズル『The Sunny City』が良かった(感想)ネタバレなし

YouTubeなどで話題になったジグソーパズル『The Sunny City』。今回、最後まで遊んでみたので、その簡単な感想を書いてみたい。しかしネタバレはできる限りしたくない。普段、映画でもビデオゲームでも、ネタバレに対して私自身は結構ユルい。ゲームのレビューなど書いていても、いつもはネタバレありという前提で書いている。しかしこの作品についてはネタバレはしたくないので、ネタバレなしで感想を書こうと思う。

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購入について

日本のAmazonでは現在(2021年11月時点)のところ8000円強の値段で売っている。元の定価は20ドルなので、そのまま購入するのはやや割高だろう。私はアメリカのAmazonで購入した。送料が2000円ほど掛かったので、結局は約4000円になった。米国Amazonのアカウント作成やクレジットカード登録に抵抗がなければ、その方が良いだろう。なお注文してから1週間ほどで日本の自宅に届いた。

ジグソーパズルとしての楽しさ

本作に興味をもった人の多くは「何か仕掛けがあるらしい」という話を聞いて、この作品に興味を持ったのではないかと思う。確かにその仕掛けを私はとても素晴らしいと思った。しかし、そもそも作成するジグソーパズル自体も結構楽しい作品であった点が、本作の素晴らしさに大きく貢献していると考える。

例えば、本作には変わった形のピースが大量にある。それ自体は他のジグソーパズルでもあることだが、その特殊なピースによって難易度が向上している点が面白い。というのも、ジグソーパズルのセオリーとして「まずは外枠を作る」というのがある。つまり一辺が直線となっているピースはそれだけでかなり大きなヒントになるということだ。しかし本作には変わった形のピースが大量にあることで、そうしたセオリーが単純には進まない。そのことで、遊び始めの最初の段階での難易度が高くなっている。しかし、これは本作の「展開の良さ」にかなり貢献していると考えられる。というのも、この作品の絵柄はかなり細かい描き込みがされていることもあり、決して難しい作品ではないからだ。細かい描き込みがあることで、外枠作成後の内側のピースを嵌めていく作業はかなり多くのヒントが与えられ、そして進捗が強く感じられる。つまり序盤の難易度が一般的なジグソーパズルより高められていることによって、中盤以降の進行のサクサク感がより高められている。そのため、ジグソーパズルにしては相対的に「遊びの展開の起伏」が強く感じられる作品ではないかと考える。

しかし、決して中盤も楽なだけではない。なぜなら、同じような柄の屋根や窓など、繰り返し別の場所に描かれる似たモチーフが多くあるからだ。そのため、決して難しすぎるわけではないけれど、完成図を見ながら試行錯誤しなければならないという、程良い難易度と達成感が感じられるようになっている。

そして円形の花タイプの特殊ピースが良い仕事をしている。

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このピースは誰が見ても特別なので、おそらく多くの人はそのピースの周りが完成した後に、その花ピースだけを「厳かに」嵌めるのではないだろうか。そのピースを嵌めることで、このエリアは制覇したぞ、という一つのメルクマールになるようになっている。どうしても単調になりがちなジグソーパズルというゲームに、ささやかではあるが起伏を与えてくれる効果をもたらしている。

そんなわけで、本作はとてもジグソーパズルの作成自体が楽しい作品であった。1000ピースというと結構歯応えのある難易度のジグソーパズルだと思うが、ぜひこの苦労と達成感を複数人で味わってほしいと思う。2人でも遊べるように完成図のポスターが丁寧にも2枚同梱されている点もニクい。

最後の仕掛けに至る演出の良さ

本レビューは当然ながらネタバレはしない方針であるので、その仕掛けを体験した私自身が感じた「感触のようなもの」を伝えたいと思う。

ジグソーパズルが完成して、それまで開けてはいけないと言われていた封筒を開ける時間というのはなんとも楽しかった。これは是非、複数人で味わってほしい。この作品が家族向け(友人同士でもOk)であると個人的に思うのは、この仕掛けを知る過程がとてもニクい演出に満ちているからだ。まずなにより封筒に書いてあるテキストが良い。いかにももったいぶっていて、凄いものが待ってるんだぞ、ということを匂わせてくる。かなり「溜めて」くるのだ。これは実際に味わってほしいのだが、少しだけ「焦らし」てくる感じだ。かなり大変なパズルを完成させた人間にとって、この「焦らし」がいい具合に快感として感じられる。というのも、ジグソーパズルの作成自体は結構辛さがあり、疲労感もあるのだが、そこから解放された後というのは、疲労の反面、なんとも言えない寂しさがあるものだからだ。「もう終わってしまったんだ」という寂しさ。しかし、この仕掛けを開示するプロセスは、その「焦らし」の効果によって、遊び手が感じている寂しさをわずかに先延ばしにしてくれる。つまり終わったんだけど、まだ終わっていない。その余韻に浸らせてくれるという贅沢さを提供してくれている点が素晴らしい。そして2人以上でそれを味わうことがとても楽しい。

勘のいい人はもしかしたらこの仕掛けに途中で気づいてしまうかもしれない。しかし鈍い私などは最後まで気づくことができず、結構マジで「おおー!」と感激してしまった。しかしその仕掛けというのは決して飛び道具ではない。これまたいい感じに、しとやかにあるべき場所に着地する仕掛けだ。この仕掛けの上品さが嬉しい。それは決して派手な魔法ではない。手元の中にずっとあったのに、それと気がつかなかった大切なものを再び見せられたような、そんな仕掛けだった。その仕掛けを味わう間の時間は正にボーナスタイム。ジグソーパズルでしかできない報酬であり、喜びであったのではないかと思う。「そんなご大層な仕掛けではないでしょ?」と鋭い知性の持ち主は言うかもしれない。確かにそれは正しく、適切な評価でもあるだろう。しかし、あの大きなジグソーパズルを完成した人にはきっと分かるはずだ。その仕掛けに包まれている瞬間がとても豊かな時間であったことを。その豊かさを味わうのに、4000円は決して高くはなかった。ジグソーパズルという古くさい遊びが、そのアナログさが、その緩やかな時間の進みが、スマホを置いて普段の早すぎる時間の流れを一時的にストップさせてくれる。それはとても今っぽい贅沢さではないだろうか。