ビデオゲームとイリンクスのほとり

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死にゲー好きにはたまらない『ドルアーガの塔(アケアカ)』があまりに楽しすぎる

2022年6月。『アーケードアーカイブス ドルアーガの塔』がリリースされた(PS4/Switch)。小学生の頃、『ドルアーガの塔』はファミコンでプレイしていたが、そこまでハマったわけでなかった。せいぜい到達しても10階ぐらい。全部で60階まであることは知っていたから、到底クリアできるとも思わなかった。正直「楽しかった」という思い出があるわけでもない。ただ、近所のお兄さんがカラー刷りの攻略本を持っていたことを印象深く記憶している。その本には不思議と憧れた。なんだか神秘的で、厳かなものに見えた。その攻略本のせいか、少し大人な人が遊ぶ、高尚なゲームだと子供心に思ったのかもしれない。ファミコン版は1985年発売。今回購入したアーケードアーカイブスは、その前年、1984年にゲームセンターで稼働したバージョンを移植したものになる。私は、そのアーケード版をゲームセンターでプレイしたことはない。

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ドルアーガの塔』は見下ろし型のアクションRPGだ。アクションと言っても激しいアクションは全くない。スティック以外に使うボタンはひとつだけ。そのボタンを押すと剣を振る動作をするが、その振る動作で敵を殺すのではない。むしろ振る動作の途中に敵と接触してしまうと主人公が死んでしまったりする。ボタンを押しっぱなしにすると剣を突き出した状態になる。その状態で敵に重なると相手を倒すことができる。攻撃よりもむしろ防御方法である盾の使い方が特徴的かもしれない。盾はほとんどの遠距離攻撃を防ぐ事ができるが、慣れないと扱いがやや難しい。使えるアクションは少ないながら、敵の動きを一つ一つ学びながら攻略していく。やってみると分かるが、今のゲームと比べるとかなり変わったアクションゲームである。

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1階から60階までの各階(フロア)に宝箱が1つだけ隠されており、特定の条件(グリーンスライムを3匹倒す、とか、呪文を歩きながら盾で3回受け止める、とか)を満たすと、宝箱が出現する。宝箱を確実に取っていかないと、途中でほぼクリア不可能になる仕様である。しかし時々取ると不利になる宝箱もあり、それは取らないようにする必要がある。各フロアの宝箱の出現条件はアーケード稼働当初は手探りだったそうだ。当時の人たちはよくそれでクリアまでしていたものだと思う。

ただアーケードアーカイブス版は、宝箱の出現条件がボタン一つで確認できる。また中断セーブも可能である。しかし、それもゲームをリセットすると消えしまうし、1つしか中断セーブは作れない。それなりに親切な機能ではあるものの、Nintendo Switch Onlineレトロゲームにある「巻き戻し機能」のような機能はない。

死にゲーに通じる魅力

こんな古いゲームに今更自分がハマるとは全く思わなかった。レトロなゲームを好んで遊ぶ人がいることは知っている。しかし私は、最新のゲームの豪華で配慮のあるゲームが好きなのだ。昔のゲームは辛すぎる。見た目もショボい。自分はそういうものを好まない人間だと思っていた。もっとメジャーで分かりやすいものが好きなタチなんだと思っていた。

しかし、ハマってしまった。なぜこんなにハマったんだろうか。私がハマった理由は、死にゲーと言われる作品をプレイする時に似た、以下の3つの特徴ゆえだと思われる。

■宝箱出現手順を毎回実施するのが楽しい

フロアごとに決まった宝箱出現条件が設定されている。それを達成するのが楽しい。この楽しさは『ダークソウル』などの死にゲーで周回プレイをする時や、あるステージに来た時などに毎回決まった動きをなぞるように実施するのが楽しいことに少し似ている。(『ダークソウル』のセンの古城を手慣れたルーティンでこなして進んでいく楽しさをイメージしてもらえると分かるだろうか)

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そして、この手順を覚える事自体が、何かスキルを学んでいるような気持ちにもなり楽しい。また、宝箱を出現させることが試練の難易度としてちょうど「できるんだけど、油断すると死ぬ」程度であり、その点もいい。というのも宝箱を出現させず、ただ突破すればいいフロア(取ると不利になる宝箱のあるフロア)の方が、難しいケースも多く、宝箱出現の難しさは、ゲーム全体の中で真ん中辺にある難しさなのだ。ある程度ゲームの内容が分かってくると、敵の攻撃を掻い潜り、いかに相手の数を減らすかが重要になってくる。そうした戦闘の難しさに対して、宝箱出現のイベントがちょっどいい中間ステップとしてモチベーションを維持してくれる。おそらく戦闘だけを続けるゲームデザインであったら、疲れたり、単調に感じてしまったことだろう。

■着実に上手くなり、時々、運で突破できる

敵の動きを学ぶことで、どんどん上手くなる。スタート位置、鍵、扉などはランダムだが、各フロアのダンジョンの形はフロアごとに決まっている。敵の動きなどは覚えて特徴を把握することで確実に生存率を上げることができる。動体視力や反射神経がそこまで必要なゲームでもない。「死なないプレイ」をいかに心掛けるかによって明らかに長く遊べるようになり、回数をこなすことで、着実に上手くなる。しかし、それだけでなく、何回か繰り返していると、運良く「あ、うまくいった!突破できちゃった」という事がある。この試行と努力の果てに、運によってたまたま良い感じの状況が生まれて突破できる。これは、死にゲーと呼ばれるゲームで感じる達成感にどこか似ている。

■ゲーム後半の無双感と歯応えの両立

ゲーム後半になると主人公がかなり強くなる。特にツルハシ(マトック)という壁を壊すアイテムが無限回使えるようになると、状況を強引に突破できるようになり、無双感が出る。しかし昔のアーケードゲームらしく、常に一撃死の危険はある。この辺りのさじ加減が見事である。死んでしまった時に、十分強いのだからその程度の困難であれば突破できたはずなのに、と反省する一方で、強くなっているからこそ、強引に進もうとしてしまったという驕りも感じたりする。

後半になるにつれて無双感が出るだけでなく、テンポ感が上がってくるところも非常に面白い。フロア29階以降は60階まであっという間という気もする。実際の時間では決してそんなことはないのだが。

ゲーム前半と後半とで、ちゃんと異なる歯応えが感じられるようになっており、各フロアごとに「ここではどういう体験をさせたいか」がバリエーション豊かに考えられている。最初から最後まで見た目は変わらない一本調子のゲームに見えながら、全般を通して様々な成長を感じさせる「冒険感」を味わえる造りは見事と言う他ない。

ビジュアルのまとまりの良さ

ファミコン版では取るアイテムによって、見た目が変わったりしなかったが、アーケード版だと取得した盾や剣によって少しだが見た目が変わる。この変化はとても些細なものだが、どこか愛おしい感じがある。苦労して取ったエクスカリバーの刀身が青色だったりするわけだが、この変な感じも面白い。

また、ラスボスまで含めてあらゆる敵がほぼ同じ大きさなのも、面白い。ドラゴンも主人公と同じくらいの1マスに収まる大きさである。

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今のゲームのように巨大なボスを出せば、それだけそのボスは強く見えるだろう。しかし、本作のラスボスであるドルアーガは数々のアイテムを集めていかないと全く歯が立たない強敵でありながら、その大きさは主人公と同じくらいで、決して大きくない。それゆえ、当然ショボくも見えるのだが、単に巨大さで強さを見せつけるのではないところが、不思議と味わい深くもある。一方で、見た目は主人公と同じだが、本当はもっとデカいんだろう、と想像させる敵もいる。例えば上記写真のドラゴンは非常に長い炎ブレスを吐く。この巨大なブレスによって見た目よりも大きな敵であるように感じてしまう。

これらの表現は、限界のある制約や仕様の中で、最大限に敵を強く見せるには、どう表現したら良いだろうか?と開発者が試行錯誤したことを伺わせる。その努力にはどこか切なくなるような気持ちさえ抱く。そしてそれを独特の味わいとして、こうして受容できてしまうのも、何よりゲーム自体が面白いということによるのだ。

フロア13をクリアしよう

ぜひこの傑作を多くの人に味わってほしい。そして挑戦をした人には、ぜひフロア13のステージを宝箱を出現させてクリアできるようになるまで頑張ってみてほしい。ここが安定してクリアできるようになった時、私は『ドルアーガの塔』の魅力に目覚めた。

本作は難しいゲームであり、理不尽でもある。しかしアーケードアーカイブス版がもたらしたヒントや補助機能によって、今遊んでもめちゃくちゃハマれるゲームになっている。私は素朴にビデオゲームというのは年々、進化しているものだと思っている。今のゲームの方が、基本的には昔のゲームより優秀だと。しかし、昔のゲームもまた、名作とされるレトロゲームには、今なお色褪せないとてつもない魅力を秘めていることを本作によって今更ながら実感した。「レトロゲームなんて、ノスタルジーで遊ぶものでしょ?」というのももちろんある面では真実なのだが、『ドルアーガの塔』は、そんな思い込みに潜む「傲慢さ」をまざまざと自覚させてくれた。そのような意味でも、まごうことなき傑作ゲームだと思う。

【補記 2022/10/31】

10クレジットでクリアした時のプレイに機械音声で実況を入れた動画を作成しました。

『ドルアーガの塔』10CCクリア - YouTube

最初は中断セーブをしながら遊んでいましたが、今はいつの日かワンコインクリアすることを目指して遊んでいます。(ようやく5コインぐらいでクリアできるようになってきた)