ビデオゲームとイリンクスのほとり

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『Before We Leave』破産のない都市開発ゲームはどうやってモチベを維持させるか?

2020年にPCでリリースされた『Before we leave(ビフォア ウィーリーブ)』。昨年から、今年にかけてコンソール版も配信されるようになった。そして2022年8月には、海外でSwitch版が発売されるようだ。私はPS5の日本語版をプレイしている。(補記2022/08/02 : どうやら8/2から日本でもスイッチ版の配信が始まった模様)

本作の特徴は、一般的な都市開発ゲームにあるような破産や全滅のような、ゲームオーバー要素がほぼない、という点にあるだろう。いわば、拡大再生産の楽しさだけをずっとやり続けるようなゲームになっている。もちろんそれは良いことばかりというわけでもない。

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ゲームオーバーなしの都市開発ゲーム

家を建てて、畑を作って、施設を作って、技術開発して、また新たな施設を作って、を繰り返す。本作はそれに加え、早い段階から船を作って新大陸に植民したり、果ては別の惑星に移住したりする。いわゆる典型的なシティビルディングの要素がかっちり入りつつ、島→惑星→太陽系と世界がどんどん広がっていく仕組みを持つ。その設定にはかなり明確なSF要素が入っている。

この手の都市開発ゲームは『シムシティ』(1989)を始め、最近ではインディーゲームでも既にたくさんあるわけだが、ここ10年間のメガヒットは『シティーズ : スカイライン(Cities : Skyline)』(2015)だろう。『シティーズ』がなぜあそこまで大ヒットしたのか、1つの要因に絞ることは難しいだろうが、その一つは「ユルさ」にあると思っている。なんとなくプレイしていても都市は拡大していき、中盤の交通渋滞という『シティーズ』のメインの問題が発生するまで、結構長い時間、それほど詰まることなく楽しく遊べてしまう。しかし『シティーズ』ではお金を使い過ぎれば序盤でも行き詰まり、不満を放置すればそれなりのデメリット(人口減、スラム化)をすぐに受ける。しかし『Before we leave』では、都市開発の基盤となる道路建設にコストは一切掛からないし、資金不足による破産というのが一切ない。しかも、住民の不満を放置してもほとんどデメリットがない。特に、お金という概念がなく、全て資源(木材、石、鉄など)によって経済が回っている点が、プレイを楽にしている。『シティーズ』以上にユルくプレイしても、破産を恐れなくて良いため、序盤はかなりのんきにプレイできる。加えて、無駄に建物を建てても解体すれば、使った資源はそのまま戻ってくる(資源の戻る割合はオプション設定で変更できる。デフォルトでは全て戻ってくる)。

他の都市開発ゲームではよくあることだが、序盤は時間進行のスピードを止めるなどして、慎重というか、やや神経質なプレイが求められる。しかし『Before we leave』では、序盤を最速スピードで進めていても特に困らない。住民たちの不満を放置するのが気の毒で、時間進行を止めたりするが、それはもはやプレイヤーの心持ち次第なところがあり、放置したからと言ってゲーム上、明確に不利になるということはあまりない。ただ、不満を溜めると住民は仕事をしなくなるので生産力が低下するというデメリットは発生する。しかし、お金の概念がないため、それで破産につながるということはない。繰り返しになるが、実にのんびりとプレイができるゲームだ。ところで、この六角形のタイルといい、お金がなく全てが資源によってまかなわれるシステムといい、どこかボードゲームの名作『カタン』を思わせる感じがある。

ユルいと虚無感が強くならないか?

しかしここで思うのは、「こんなにユルいと、緊張感もなくて、逆にプレイに虚無感が漂わないか?」ということだろう。確かにその面はある。しかし、研究開発ツリーを伸ばしていき、終盤まで進めていくまでは、なかなか退屈にならないようになっているのが、この作品の見事なところだろう。各施設は作ってみると意外に面白い機能があることが分かり、作れば作るほどやりたいことは増えていく。単に見た目だけの施設などはほぼない。施設のうち9割ほどの種類を建設するまでには、初回プレイなら、約10時間はかかる。結構ボリューム感のあるゲームでもある。

この手の他のゲームだと、序盤を何回かやり直して、経済が軌道に乗るまでのコツを掴んで、初めてゲームのコアな楽しみを味わえる、なんてことはよくある。しかし、何回か序盤をやり直すのは、心理的なコストも高く、「都市開発ゲームやりたいなー」と思っても、また新たにそのゲームの「遊び方」を学ぶのが面倒で挑戦できないと思う人も多いだろう。その点、失敗がなく、ゲームオーバーがあり得ない本作は、中盤まで確実に1回目の初回プレイで到達することができるし、なんなら終盤まで行くことも可能だろう(ただ、初回は必ず「チュートリアル」でプレイした方が良い。何が進行のフラグになっているか、分かりにくい面もあるからだ)。チュートリアルはかなり長いので、嫌になったら止めるといい。しかも施設や建物は、建ててしまっても解体すれば資源は回収できるため、最悪、詰まることもない。何より、序盤の村づくりは1回目のプレイでも何回かすることになる。他の島や惑星に植民するという仕様になっているため、新天地ではイチから小さな村を作ることになるからだ。そして、この村作りは慣れてくるとかなりハイペースで進められる。何もない大地にポコポコと家や畑が立ち並んでいく様はいつ見ても楽しい。

一方で、2回目以降のプレイのモチベーションは、都市景観や効率性の追求というやや地味な目標で遊ぶことになるため、その点、リプレイ性には疑問がある作品ではある街の発展のさせ方には、それほどバリエーションがないからだ。ただ、ゲームの仕組みをある程度理解した上で、サクサク進める楽しさが好きな人であれば、数回は遊べるゲームであると思う。また、本作には「シナリオモード」があり、いわゆる特定の制約条件下で、特定の課題をクリアするタイプのモードが備わっている。こちらは高難度設定されているため、慣れてきたらそちらを楽しむのが、製作者の意図なのだろうと思う(まだ私はシナリオモードは未プレイ)。

では、基本的にヌルい本作が、どのようにプレイヤーにモチベーションを抱かせるかというと、既に書いたが「状況の進行を止める(生産を止める)」という方式にしている。つまり、新しい局面が出てこなくなるから、工夫して都市をどんどん発展する必要に迫られる。新しい局面を見たくてプレイヤーは頑張る、というわけだ。本作にはこの手のゲームに珍しく明確なエンディングがある。その点、都市開発シミュレーションの皮を被っているものの、一つのストーリーを提示する作品でもある。そういう意味では『Frostpunk(フロストパンク)』のようなゲームに近い。ただ、序盤はストーリー性が薄く、普通の都市開発シミュレーションのように見える。この辺りのチグハグ感をどのように評価するか、というのも本作に対する評価の分岐点になるかもしれない。エンディングについては、……これからプレイする人のモチベーションのためにも黙っておくこととしよう。

ローカライズやコンソール版の短所

私はコンソールのPS5版の日本語で遊んでいるが、日本語は概ね内容が理解できるレベルである。ただ、時折、分かりにくい表現もあるし、かなり今ひとつな翻訳になっているところも多い。例えば、"tools"を「道具」と表記したり、「ツール」と表記したり、用語統一されていない点は、やや戸惑うかもしれない。また、チュートリアルログが日本語フォントに合わせていないため、行同士が重なって表示されるなど、あまり丁寧なローカライズや検証がされていない。そうした欠点はあるものの、日本語があるおかげでプレイできるというほどにはテキスト量も多く、助かっている。なおゲーム内に言語設定をするオプションがないため、英語版ではどうなっているのか、確認できていない。本体設定を英語にしたら、英語版でプレイできるのかもしれない。

また、PCでのマウス&キーボードでプレイすることが基本の画面設計となっているため、パッド(ゲーム用コントローラー)でのプレイにはやや不便さを感じる。パッドでのプレイに合わせて、情報を固めて表記したりR1ボタンなどで手早く資源状況を参照できるようにされていたり、多少はコンソール版固有の処置が施されているが、それも限定的である。特に施設が増えてきた時に、スクロールの下の方にある施設を参照するのに時間が掛かるところなどは単純に良くない点だろう。また、ゲーム中盤以降、交易によって物資をいかに上手く輸送させるかが、ゲーム進行のキモになるが、ここの操作性はあまり良くない。交易航路が増えていくと、非常に操作がしづらくなってしまう。これはPC版からして決して優れたUIではなかったという面もあるかもしれない。

あと残念だった点が、島の名前や惑星の名前がリネームできないという点だ。「島1」とか「惑星2」という味気ない名前でプレイするしかない。個人的には島の名前はそのままで良いのだが、惑星の名前だけでも変えたかった。排出する資源や特徴などを名前に付けるのは、ゲームを進める上でも便利だったりするので、対応してほしいところだが、あまり売れてなさそうなので、期待薄かもしれない。なおPC版ではリネーム可能である。

そして、PC版では比較的大型のアップデート(The Wasteland Update)があり、これはコンソール版では配信されないことが公式からも告知されている*1。施設や災害などが増えるアップデートのようだが、コンソール版での対応はまず無さそうだと思われる(他にも"Planet editor Update"というアップデートもあるようだが、そちらもコンソール版には対応しないようだ)。

本作のフレーバーテキストが中盤以降、さまざまに出てくるのだが、バグなのか仕様なのか表示されないことが頻繁にあった。また、日本語訳のテキストが表示枠の中に収まりきらず、読めない部分もあった。前述の通り、こうした点のローカライズ品質の低さはかなり残念だ。ゲームプレイが面白いだけに余計に残念な気持ちになる。

まとめ

以上のような点から、胸を張っておススメできるというほどではないが、それでも都市開発ゲーム特有の「時間を忘れる楽しさ」はちゃんと享受できるゲームだ。特に明確なエンディングがあるところは、モチベーションの維持に悪くない。私は2回目のプレイでクリアしたが、もう少し遊べそうと思っている。総じて悪くないゲームだ。同じようなことの繰り返しになる面はあるものの、やりたいことが次々と生まれてきて、それに時間を奪われていく快感は確実にある。ある島の開発に没頭してしまい、別の島での開発がおざなりになるなんてこともしょっちゅうあるが、多少放置しておいたところで、ほとんどデメリットがない仕様が実にありがたい。そのストレスの無さは、本作の有する圧倒的な長所だろう。時間を止める必要がないので、あるエリアの開発に夢中になっている間に、別エリアで豊富な加工品が大量にできていて、さらにそれで新天地での都市開発をスピーディーに進められる、なんてサイクルも生まれる。もちろんいつの間にか電力不足になっていて、生産が止まっているなんてパターンもあるわけだが、神経質に時間を止めながらプレイする必要があまりないのはやはり本作の長所だろう。

また、ヌルいヌルいと散々言ってきたが、中盤から明らかにこちらにデメリットを与えてくる仕掛けがあり、それを踏まえるとただただヌルいわけではない。ヌルいけれども程よい緊張感を与えてくれる仕掛けになっている。

ゲームオーバーはないものの、野放図な開発をすると収集が付かなくなり、「これなら最初からやり直そう」と思うパターンもある。私の初回プレイは、それが理由で最初からやり直した。もちろんニューゲームで最初からやり直さなくても、施設を解体して、資源を取り戻してから再び再構築していく道もあった。しかしサクサクプレイできる序盤をもう一度遊びたいと思ったというのもある。街のでき始めが一番面白いというのは、都市開発ゲームあるあるだろうし、本作もその点、序盤の街ができ始めるところの楽しさは確実にある。ゲームのテンポが悪くなるのはゲーム後半の、特に中盤戦の終わりから終盤に入ろうとするあたりが、単調さを感じるピークかもしれない。ここを乗り換えると、クリアまではなんとかやりたいと思えるようになるだろう。

【補足】交易がストップしてしまうバグ?

資源の在庫があるのに、うまく資源が輸送されないという事態が、度々発生した。同じような訴えをしている人を海外の掲示板などでも見たので、もしかしたら、バグなのかもしれない。ただ、プレイヤー自身が悪い場合もあるかもしれない。私が確認した例で言うと、「港の保管庫がいっぱいで輸送船から積み下ろせなかった資材Aが一度あると、その後にその資材Aを積み込めるだけの空きができても、資材Aを積み込まなくなり、輸送がストップする」という事象が発生した。

そこで、港に接岸した船を選択し、「すべて降ろす」を選択して船の積荷を一度クリアしてやると、なぜか輸送が再開するようになったことがあった。

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また、明確な理由は分からないが、同様の問題が解消できるいくつかの操作があったので、もし他の同じような悩みを持つプレイヤーの参考になればと思い、以下に記しておきたいと思う。

  • 交易上の輸送船を一時的にその航路から削除して、再び、その輸送船をその航路に登録し直す
  • 上手く輸送されない資源を輸送対象から削除し、1回か2回船を往復させてから、再び、その資源を輸送対象として登録する
  • 輸送先での目標数をデフォルトの20から60くらいまで一時的に上げてみる
  • R1で資源ごとに輸送に割り当てる資源の数値を設定する(島内で使わずに輸送に回せる)
  • やや面倒だが、航路自体を削除してもう一度登録し直す(輸送資源の再設定が必要)

もちろん、上記のことをやれば確実に直るというわけではないと思うが、参考にしてもらえれば嬉しい。