ビデオゲームとイリンクスのほとり

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クセつよ傑作『キングダムカム』の実はあまり「クセのない」魅力

2018年に『キングダムカム・デリバランス(Kingdom Come: Deliverance)』という作品がPCでリリースされた。家庭用機版(PS4/XboxOne)も翌年の2019年に出ているので、今更話題にするにはリリースから随分と時間が経ってしまった作品でもある。2022年末のセールでPS4版がえらい値引きでセールしていたため(全DLC込みのロイヤルエディションが80%オフだった)、買ってしまった。クリアまで100時間。サブクエストを真面目にクリアしたため(とはいえ全部とかでもないが)、長時間プレイになった。これだけ長く遊んでいたいと思わせてくれた本作は、まちがいなく傑作RPGだった。

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『キングダムカム』は、すごく「クセつよ」なゲームだ。ゲームメディア等でのレビューでは、操作の煩雑さ、戦闘システムの分かりにくさ、セーブ仕様の特殊さ、そしてチュートリアル不足などによって、この「クセつよ」な側面が、時には肯定的に、そして時には否定的に評価されている。この「クセ」を比較的肯定的に評価しているのは、例えばIGN Japanの以下のレビューだろう。

『キングダムカム・デリバランス』レビュー

序盤こそ煩雑なリアルさにうんざりさせられるが、戦乱の時代を生き抜くドラマと、非常に高品質なローカライズによって、ゲームプレイに慣れていくことが主人公ヘンリーへの感情移入に重なってゆく。

---IGN Japan レビュー『キングダムカム・デリバランス』

一方、否定的にレビューしているのはAUTOMATONの以下のレビューだ。

『キングダムカム・デリバランス』レビュー。リアリティの探求に散った夢物語 - AUTOMATON

従来のRPGでは表現できなかったというリアリティをコンセプトに掲げた『キングダムカム』のゲームシステムは、表現という分野においてその意欲こそ認められるものの、出来栄えは観るも無残である。込められるはずであった理念は高尚なまま当て所無く霧散しており、全体としての完成度は低い

---AUTOMATON 『キングダムカム・デリバランス』レビュー。リアリティの探求に散った夢物語

作品の持つ「癖の強さ」というのは評価する上で中々難しい。個々人の趣味もあるだろうし、それ以外にも、プレイヤーがネット上の攻略wikiや攻略動画を自主的に見ていくかどうかというような、ゲーム外での姿勢によっても大きく評価は分かれるだろう。そういう情報を積極的に集める人であれば、癖のある難しい操作なども乗り越えられる可能性が高まるからだ。

私自身は『キングダムカム』をかなり高く評価している*1。しかし「単に出来が悪いだけだろ」と言いたくなるような欠点も多い。しかしそうした数多の欠点を差し引いても本作を高評価したくなるのは、一般的に流布している「クセつよ」の印象に反して、実はかなり「クセのない」魅力を持っており、それが底力となって一部の熱い支持を形成していると考えるからだ。本稿ではそのことを示してみたい。

「美人は少ない」というリアリティ

『キングダムカム』はとにかく「リアルだ」「リアリティがある」という言葉で語られがちである。実際、癖の強い操作性やかなりスローテンポなゲーム進行を序盤で味わうとそのように評したくなるのは良く理解できる。

ここで一人称視点や中世風世界観のRPGという点で似ている『TES4 : オブリビオン』(2006)や『TES5 : スカイリム』(2011)を思い返してみたい。これらの作品には、『キングダムカム』にはない魔法やドラゴンなどのファンタジー要素がある。*2。しかしそんなファンタジー要素のある『オブリビオン』や『スカイリム』でも、かなりリアリティには強いこだわりがあった。例えば『スカイリム』なら、中世風の建築物、湖、雪山、草原、山岳など、風景のリアリティは非常に高いものであったし、出てくるキャラクターたちも様々な種族、職業、性格などの人物が入り乱れる世界が描かれた。それはとても多様で豊かな世界であり、これまでのゲームよりも現実世界の複雑さに迫ろうとする破格のリアリティを感じさせた。そうした『スカイリム』の高い「リアリティ」の一つの要素として、「そんなに美人キャラクターが出てこない」という点があったと考えている。以下の画像は『スカイリム』でゲーム内で結婚できる女性キャラクターの画像だ。

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もちろん『スカイリム』は、10年以上前のゲームであるし、『キングダムカム』とは異なる審美眼によって制作されているだろうから、単純に比べることはできない。そうした留保をつけても、美人とは言えない容貌のキャラクターばかりが『スカイリム』では出てくる。これは『スカイリム』を実際にプレイしたことがある人なら概ね納得してくれるだろう。なお、『スカイリム』では決してブサイクしか出てこないわけではない。以下の記事にある通り、数少ないながらも美人は存在している。(美人の判断は人によるだろうが、他のキャラクターとの相対評価で美人と判断できるキャラクターはいる)

【スカイリムSE】思わずスクショが撮りたくなる美人なNPCランキング|Ansal Blog

f:id:tuquoi:20230116101651j:image『スカイリム』での美人の例、シグルジャ(Syglja)

『スカイリム』というゲームが提示するのは、顔の平均点がかなり低いということである。美人の数は少なく、そうした「美人など滅多にいない」というスタイルが、その世界のリアリティに貢献していた。大衆的なヒーロー映画のように、美男美女ばかりが出てこないことに『スカイリム』の世界の「もっともらしさ」があった。

美人ばかりがいる15世紀のボヘミア

では一方で、『キングダムカム』ではどうだろう。以下のキャラクターは、序盤で登場する女性キャラクターだ。

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『スカイリム』を見た後ではびっくりするくらいの美人キャラクターだ。なおゲーム内世界でも、「美人だ」と評されるキャラクターではあるが、彼女だけが特別にキレイな顔をしているわけではない。

以下のキャラクターは、固有の名前も付いてないモブキャラの女性である。先ほど示した女性よりは「美人」ではないかもしれないが、『スカイリム』よりはるかにキレイな顔をしている。

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また次のキャラクターも別に重要なキャラクターでもなんでもない単なる町の人。

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『キングダムカム』では、顔の平均レベルがかなり高い。これは何も女性キャラクターだけではない。男性キャラクターも普通にかっこいい顔をしている。以下の画像は主人公の父親である。

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『キングダムカム』では、15世紀のボヘミアを舞台としているが、美男美女の俳優が出演しているようなキレイな顔が多く出てくる。もちろん日本のある種のゲーム*3のように全てが美人やイケメンばかりではなく、平凡な顔のキャラクターも大勢いるが、顔面偏差値は総じて高い。これは「人を選ぶ」ような「クセつよ」で「ハードコア」で「リアリティを追求」したゲームというイメージからは少し想像しづらい特徴ではないだろうか。しかし、昨今の欧米のゲームでよくある、キャラの顔が「特にキレイでもなんでもない」もしくは「『普通』の顔ばかりが出てくる」そんな「リアル」なゲームを数多く体験していると、逆にこの「クセのない」顔面が多く出てくる『キングダムカム』には、どこか「ホッと」する*4

分かりやすいドラマ

『キングダムカム』はリアルな中世を再現したゲームのように言われるが、それは魔法やドラゴンのような非現実的な要素がないことや、空腹や怪我の治療などのやや面倒とも思える仕様の存在が、そうした印象を与えるのだろう。もしかしたら、未プレイの人の中には『キングダムカム』を「中世ライフシミュレーター」のような物語成分が薄めなゲームだと思っている人もいるかもしれない。現に私はプレイ前はそういう印象を持っていた。しかし実際にプレイしてみるとかなり印象が違う。本作はものすごくわかりやすい、ある種、ベタベタなドラマが展開するストーリー要素の強いゲームである。

序盤の物語は、主人公の住んでいる村が横暴な貴族によって襲撃されてしまうエピソードから始まる。そのイベントが発生する前は、地味で淡白な中世の生活感が溢れるクエストをこなしていたプレイヤーは、この劇的な展開に少し驚くことだろう。ただ、よく考えてみると「主人公の村が焼かれる」というのは、中世物としては凄くありがちで「クセのない」物語が描かれているとも言える。例えば主人公の村が焼かれて、そこから冒険が始まるのは『ドラクエ11』(2017)の序盤の物語とほぼ同じである。復讐心によってモチベートされるという誰でも感情移入がしやすいプロットだ。

またこの序盤のイベントだけでなく、いわゆるロマンス要素も実にベタに開始し、そしてベタに進んでいく。「ロマンス相手の女性と遊んでいたら、突然激しい雨が降ってきて、2人して洗濯物を取り込んで納屋に持って行く。その納屋で2人っきりになった男女は……」という、一瞬、自分は少女漫画でも読んでいるのではないかと錯覚するような展開で実に楽しい。しかしこうした物語要素がベタベタであるものの、そのドラマとしての質が低いわけではない。セリフも流れも実に丁寧に作られており、無理なくこのゲームの世界に入っていける。これは丁寧な日本語ローカライズによるものでもあるだろうが、リアリティを毀損しないように注意を払いつつも、多くの人にとって分かりやすく、受け入れやすい物語を提示しようとする開発者側の意図を感じる。

「リアル」ではないユルい仕様

本作はある消費アイテムを使わないとセーブができない仕様である。昔の『バイオハザード』シリーズのインクリボンのような仕組みをイメージしてもらえれば良いだろう*5。しかし実は『キングダムカム』には、この消費アイテムを使うセーブ以外に、中断セーブが可能であり、その場合はアイテムを消費しない*6。中断セーブすると強制的にメインメニューに戻ることになるが、他のゲームでよくある仕様とは異なり、中断セーブを再開しても、そのデータは消えたりしない。次の中断セーブを行うまでは残っている。詳しい説明は注釈の方に書くが*7、要は消費アイテム使わないとセーブできないような仕様にしておきながら、多少の手間を犠牲にすれば、いとも簡単にそれを回避できるようになっているのだ。しかし、この「ユルさ」こそが『キングダムカム』のどこか憎めない魅力でもある。単にシビアで辛いだけでなくて、硬軟あわせ持った実に「ユルい」システムとなっている。

また、消費アイテムを使ったセーブ以外にもクエスト受注時には自動的にセーブされ、長いクエストであれば、ちゃんと途中のチェックポイント的なところで自動でセーブされる。これらはいつでもセーブデータの一覧から再開可能である。

セーブデータの仕様に限らない。他にも例えば、主人公が持てる荷物には重量制限があるものの、馬を手に入れると運べる量が一気に2倍以上に大きく増えて便利になる。そして、馬が近くにいなくてもいつでもその馬に荷物を移動できる。重量制限に引っかかるとダッシュやジャンプやファストトラベルができなくなるが、馬に荷物を預けて手持ちの荷物を減らせば、ジャンプなどもできるようになる。その際には、馬をわざわざ近くに呼ぶ必要もないし、馬の入ってこれない屋内でも馬と荷物を簡単にやり取りできる。こういうところもまったく「リアル」ではないが、プレイヤーとしては大変にありがたい。

また、主人公専用の荷物置き場は世界中で共有されていて、その荷物置き場で一度保管したアイテムは、別の離れた場所にある主人公専用の荷物置き場から、いつでも取り出すことができる。これもまた、まったく「リアル」ではないが、そういう妙にプレイヤーにとって優しいところが『キングダムカム』にはあるのだ。

クセの強弱の混在こそが『キングダムカム』の魅力

以上のように、『キングダムカム』は単に「クセつよ」なゲームなのではない。おそらく、これだけ煩雑なゲームで、「美人なんて滅多にいない」などのリアリティも追求していたら、本作への評価はもっと厳しいものになっていたのではないだろうか。面倒なことをさせられるけど、物語やキャラクターや一部のシステムは妙に使いやすくて素直に好感が持てる。そしてこのクセの強さと弱さの両面が、一つの商品にパッケージングされていることこそ、本作が多くの人を魅了した底力となっていると私は思う。なお、メタクリティックスでは、コンソール版(PS4, XboxOne)が69点や68点と厳しい評価を得ており*8、PC版では76点だ。Steam評価では80%を超えるポジティブ評価を得ているが、その程度の評価のゲームだと言えなくもない。良作ではあろうが、傑作ではないといったあたりが本作に対する妥当な評価だろう。しかし、私は本作を1周目にしてクリアまで100時間も楽しくプレイしてしまい、疑うことなく傑作ゲームだと感じている。「お使いミッションで、何もない平原を、時折、あばら屋や小屋を横目に見ながら、ダラダラと馬で駆ける」とか「腹が減ってきたから、羊の肉でも焼いて食べるか、いや腐りかかってるリンゴを先に食べるか、どうしよう」とか「荷物が重くなってきたから、さっき拾った弓や斧を売ってくるために街まで遠出しよう」とか、そういうたわいもない営みを『キングダムカム』で行うことに、不思議な充実感を感じることがある。面倒な営みを納得させるだけの謎の説得力がある。なぜそんな日常的で作業的なことをして、楽しいのか自分でもよく分からないのだが、『キングダムカム』には『どうぶつの森』にも通じるような、瑣末な作業をすることを楽しくさせる魔法のような力が確かにある。そしておもむろに気が向いたらメインクエストなどを進めて、ガッツリとした中世のドラマや物語を堪能することもできる。こうした楽しみ方は、決して「変」でも「奇特」でも「特殊」でも、そして「クセつよ」を楽しんでいるだけでもない。むしろゲームに求める欲望としては、とても素朴でストレートな欲望なのではないだろうか。そう考えると、『キングダムカム』は一見クセが強そうに見えて、私たちの欲望のスイートスポットを狙い撃ちしてくる意外にしたたかな作品にも思えてくる。

 

*1:私が高評価している背景として、既に致命的なバグなどが改善されたバージョン(1.9.3J)を遊んでいるからという理由があるかもしれない。ただ、最新版のバージョンでもまだ致命的なバグが出ているという噂も聞くので、たまたま現時点で、私は運が良いだけかもしれない。例えば、DLC「ある女の運命」(ヨハンカ編)をメインより先に進めると良くないとか....、共通スタックに物を入れすぎるとバグりやすいくなるとか.....。また、ゲーム自体はPS4版であるが、PS5でプレイしているため、その点でもPS4で遊ぶより良い面があるのかもしれない。

*2:『キングダムカム』では錬金術で作成できる薬(ポーション)が、やや都合の良すぎるアイテムとして現実離れした要素として出てくる。

*3:ここで「日本のある種のゲーム」という言葉で私がイメージするのは、コーエーテクモゲームズのような美人(イケメン)武将、美人秘書などが、やたらと出てくるゲームをイメージしている。個人的な感覚としてはコエテクのゲームは、美人のインフレが起きて、美人の価値を目減りさせている印象がある(本稿の主旨とは全く関係ないが)。ちなみに言っておくと『キングダムカム』ではインフレが起きるほど美人ばかりが出てくるわけではない。

*4:と、同時に少しだけ後ろめたい気持ちになる

*5:そのセーブのための消費アイテムは戦闘中以外であれば、ほぼいつでも使用可能なので、『バイオハザード』よりもどこでもセーブできる点でより便利ではある。

*6:ここでは便宜的に「中断セーブ」と言っているが、ゲーム内に「中断セーブ」という言葉は出てこない。「セーブしてゲームを終了する」という選択をオプション画面で選ぶことを指している

*7:ちょっと先行き不安な場所で中断セーブをすれば、その後失敗しても、いつでもそこからやり直すことができてしまう。ただ、中断セーブの再開はメインメニューからしか選べない。プレイ中に見られるシステムオプション画面のロード一覧には中断セーブのデータは出てこない。だから、中断セーブからやり直して再開するためにはどうしてもアプリケーションを一度落として(ゲームを強制的に終了させて)メインメニューに戻る必要がある。ゲームプレイ中にメインメニューに戻る方法がないからだ。中断セーブしてメインメニューに戻ろうとすると、中断セーブのデータを新しい中断セーブで上書きしてしまう。そのため、アプリケーションを強制的に落としてゲーム自体を再起動する必要がある。その点において、中断セーブは使いづらく、消費アイテムを使ったセーブは使いやすい(ロードの一覧からすぐに再開できるからだ)。しかし、こうした若干の手間さえかければ、いつでも消費アイテムを使わずに任意にセーブできる仕様というのは、実に中途半端でいいかげんな仕様と言える。リアルを追求するのであれば、中断セーブから再開した場合はそのセーブデータを消す仕様とした方が、一貫した硬派なシステム仕様と言えるだろう。

*8:この評価の低さは、バグの存在も大きいと思われる。特にクエスト進行が不可能になるバグが当初はかなりあったようだ。しかし最新版でもまだ多少はあるとの話も聞く。